「大阪都構想」は、維新と公明党による大阪市民を対象にした巨大な詐欺である

2020726

藤井聡 (京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

2015年の住民投票で否決された、『大阪市廃止・特別区設置』構想、いわゆる『大阪都構想』(以下、「大阪都構想」と略称)は、その後の紆余曲折を経て、2020年の秋に再び、若干の修正を加えた形で、ほぼ当時の内容のまま再び住民投票が行われる見通しとなっている。

 「大阪都構想」の最も重要な要素は、「大阪市民の自治を廃止するか否か」という一点だ。だからこそ、その住民投票の有権者は「大阪市民」に限定されているわけだ。そして、2015年の住民投票で、大阪市民は自らの自治を廃止することについて「No」の判断を下したのである。したがって、よほどの大きな状況変化が無い限り、当面の間は大阪都構想の議論そのものがお蔵入りになって然るべきだったのだが―――大阪都構想の実現を政治活動の中心に据える「大阪維新の会」(以下維新と略称)の党勢維持・拡大のための「党利党略」的理由から、大阪都構想の議論はその後も続けられた。

 そして、いくつかの選挙を経て、今度は公明党が、自らの「党利党略的」理由から維新に協力する方向に大転換を果たし、その結果、大阪市議会においても大阪府議会においても、大阪都構想の賛成派が「過半数」を占めるに至った。そしてその帰結として、本年2020年の秋に大阪都構想の住民投票が行われることとなったのである。

 つまり、本年の大阪都構想の住民投票は、その構想の中身についての議論を経て決定されたのではなく、タダ単に、維新と公明党が、自分達の党勢の維持と拡大のための党利党略上の都合だけで決定されてしまったのだ。すなわち、政治学的な冷静な検討を踏まえれば、まさに大阪市民不在の政治力学の帰結として決定されたものが、この住民投票だと分析せざるを得ないのである。

 もちろん、あらゆる政党が、党利党略を持つものであり、その党利党略を持つことそれ自身は責められるものではない。「正義」の実現には政治権力が必要であり、その政治権力を入手するための正当なアプローチが党派を形成し、党利党略を持つ事だ。しかし、正義ではなく党勢の維持拡大を第一目標に据えた党利党略は純然たる大罪に他ならない。そして遺憾ながら、政治学的行政学的に考えて、維新と公明党は共に、正義不在のまま党勢の維持拡大のための党利党略を図っているのが実態だ。

 まず、維新の党利党略についての分析から解説しよう。

 言うまでも無く彼等はかつて単なる「新興勢力」であり、既存政党との差別化が党勢の維持拡大にとって必須であった。そしてその差別化のために彼等が案出したのが、「大阪都構想」であった。そして、他党が主張していないその大阪都構想という目新しい構想を派手派手しく主張し続けることで、有権者の支持を取り付け、それを通して党勢の維持拡大を図るというのが、彼等の基本的な戦略であった。

 無論、大阪都構想に義があるなら彼等の党利党略は正当化されねばならない。しかし大阪都構想なるものには、大阪市民の利益をもたらすような義は一切ないのである。なぜならその本質は、先にも指摘したように自治の廃止」に他ならぬものであり、そして、自治とは当該の「市民」にとって政治学的に最も崇高なる意味を持つものだからである(なお、自治を失うことによる行政学的な深刻な被害については後に詳しく述べよう)。したがって、大阪都構想は、維新の党勢の維持と拡大のためだけに案出された詐称的寓話以上のものではないのである。

 一方、公明党の党利党略は、公明党の大阪府内の衆議院議員が、次の衆議院選挙における小選挙区において「勝利」することを唯一の目的として組み立てられたものである。公明党としては、「常勝関西」と呼ばれた衆議院選挙において、議席を絶対に失いたくない、そのためなら、悪魔と手を結ぶことすら辞さない、という態度を持っていると実践政治学的に想定される。

 そしてそうした意図を公明党が持つ事を知る維新は、公明党に「もしも、大阪都構想に協力をするなら、対立候補を立てないが、反対するなら対立候補をたてて、お前達の議席を奪い取ってやる」と提案(あるいは、脅迫)する格好となっている。もちろん選挙における維新の支持率がさして高くなければこの脅迫は脅迫として機能しない。しかし、維新の大阪における支持が高まれば高まる程に、この脅迫の効力が高まっていく。そして、大阪都構想の住民投票の否決を通して一旦衰えたやに見えた維新の支持は、いくつかの選挙を経てその後着実に上昇していき、「コロナ騒動」における吉村知事人気によってさらに高まっているのが実情である。こうした状況の中で、大阪での衆議院小選挙区の議席を是が非でも失いたくない公明党は維新の脅迫に「震え上がる」状況となってきたのである。

 かくして、公明党は大阪都構想の善悪ではなく、単なる党勢維持のためだけに維新の脅迫に屈する格好で、大阪都構想に賛成するに至ったのである。

 「大阪市民、誠に哀れ哉―――」と言う他無い。

 ところで、この「大阪都構想」に対する支持は、先に指摘した昨今の「吉村人気」を通してさらに高まってきているやに見える。では多くの大阪人達は、この大阪都構想についてどの様なイメージを持っているのだろうか?行政学的な実際の中身を論ずる前に、「一般的イメージ」について確認しておきたいと思う。

 それを知る手がかりはやはり、推進派の維新が、大阪都構想をどの様に説明しているのかから伺い知ることができる。例えば、例えば、本稿執筆時現在における最新(令和2723日)の吉村知事インタビュー『吉村洋文が大阪都の実現にトコトンこだわる訳:45歳の若き府知事が突き進んできた政治家の道(東洋経済オンライン, 2020/07/23)』にて、彼は、大阪都構想について次のように発言している。

https://toyokeizai.net/articles/-/364237

「もともと大阪を成長させるため、都構想を実現させるために市長となったのだから、ぶれない軸として、都構想を絶対にやり遂げるという思いでやっていこう、と決心した」

「大阪市は都道府県のような都市です。都道府県の仕事と市町村の仕事の2つをやっています。港、大学、地下鉄、それから広域戦略、財政規模にしても、小さな都道府県より大きな仕事をやっている。大阪府の中に府と市が2つある。これを改めようというのが都構想です。」

「自分たちの利得ではなくて、都構想を実現して大阪を成長させるという点に絞っています。全くぶれない。府民の皆さんは、特定の人たちの利益でなく、大阪の利益になるとうすうす感じていると思います。」

「大阪都構想を実現し、大阪の府・市の二重行政をやめて、東京のほかにもう1つの軸を大阪に作る。大阪、関西を成長させる土台を築き、東京とのツインエンジンで日本を引っ張るような大都市にしていく。政治家としてそれがやれたらいいなとは思いますね。」

これらの発言から浮かび上がる「大阪都構想」というものについての一般的イメージは、集約すると次の三点だ。

1)兎に角、大阪都構想を実現すれば大阪は成長する。

2)兎に角、大阪都構想が実現すれば、大阪は、日本を牽引できる東京と同格の都市になる。

3)大阪都構想で大阪が成長できるのは、「無駄な二重行政」を解消するものだからだ。

つまり、「大阪都構想をやれば大阪は成長し、東京と同格の都市になれる。そしてその理由は、無駄な二重行政を解消するからだ」というのが、一般的なイメージだ。

 筆者とて、もしもこの話が本当ならば、大阪都構想に大賛成するだろう。なんといっても、当方も大阪を愛し、高校時代に毎日大阪に通っていた一人の関西人として、高度成長期の頃、確かに輝いていた大阪が、年々衰退し続け、いつの間にか東京に比べれば随分と格下の都市に成り果ててしまったこの現状に心を痛めているからだ。

 そして、しかも、大阪に暮らす庶民のことを慮れば、大阪経済が衰退することで、自分達の所得が減って、暮らし向きがどんどん苦しくなってきていることは深刻な問題であることは間違い無いだろう。だから、大阪が成長し、東京と同格の都市になれると聞けば、支持したくなるのも当然だ。「行政の事は分からないが、二重行政というのも確かに無駄なものの様に聞こえるし、それさえなくせば成長できるなら、何もしないよりも都構想、やってみた方が良いんじゃ無いか」と思う方がいたとしても何ら不思議ではない。

 ―――しかし、後に詳しく述べる様に、こうした一般的イメージは、完全なる間違いだ。吉村知事が意図的に嘘をついているか否かはさておき、行政学的に言えば、彼が口にしている話は、完全な「嘘話」だ。

 それは、大阪都構想の「イメージ」ではなく「中身」について考えれば一目瞭然なのだ。以下その点について改めて解説しておこう。 

 行政学の視点から言う大阪都構想とは、一言で言えば「過激な行政改革」、すなわち、「行政の仕組みを変える、過激な大改革」というものだ。

 そしてその改革の中身は、

1)大阪市民による「大阪市」という政令指定都市による「自治」の仕組みを廃止する。

2)一方で、今の大阪市が持っている財源と権限の一部を、「大阪府」に譲渡する。

3)残った財源と権限を、今の大阪市を4つに分けた「特別区」に分割する。

というものだ。

 つまり、大阪都構想というものは、大阪市民にとってみれば、今まで培ってきた「政令指定都市」という自治の仕組みを廃止することで、今まで所有していた財源と権限が大阪府に吸い上げられると同時に、残った財源と権限を4分割するというものだ。つまり大阪市民は、これまでは大阪市という強力な行政権限を「所持」していた一方で、大阪都構想が実現すれば「特別区」という非常に脆弱な行政権限しか「所持」できなくなってしまうのだ。

 端的に言うなら、大阪都構想によって大阪市民は行政におけるカネと権限を大幅に失うのだ。

 つまり、大阪都構想というものは、大阪市民にとっては、「百害あって一利なし」とでも言うべき代物なのである。

 したがって、大阪都構想というものが、単なる行政改革であり、かつ、その行政改革は一体どういう代物なのか?を知る人は、通常、賛成などしない賛成するのは、その中身を知らず、維新達が喧伝する「イメージ」だけで判断している人々にほぼほぼ限られるのである。

 実際、筆者らが大阪都構想の住民投票の翌年の2016年に大阪在住の人達を対象に行った調査では、「都構想を正しく知る人々」の8割以上が都構想に「反対」である一方、「都構想を誤解している人々」の6割程度が都構想に「賛成」であることが示されているつまり、都構想を正しく知る人の大半が反対し、知らない人の過半数が賛成していたのである。

 あるいは、逆に集計すれば、次のような結果も示されている。つまり、大阪都構想に賛成を表明している人の7割以上が「都構想のことを知らない人」であった。一方で、反対を表明している人の約7割が「都構想のことを知る人」だったのである。

 つまり、大阪都構想というものは、それに賛成するような人は基本的に都構想を知らない人々なのであって、都構想の中身を知るようになればその大半(8割)が反対するようなる、というような代物なのである。

 だから、大阪都構想の賛成派が上回るか、反対派が上回るかは偏に、大阪都構想について正確な知識を知る人が増えるか増えないかに直接的に依存しているのである。

 だからこのままでは、

「大阪市民は、先人の努力で大阪市民が獲得した「政令指定都市というより高度な自治」の有り難みを全く理解しないままに、「大阪が発展して東京みたいになる」というイメージだけで大阪都構想を実現し、それをドブに捨ててしまう

ということになる他無いだろう。

 そしてそうなれば確実に現大阪市民は、今日彼等が享受している「政令指定都市というより高度な自治の恩恵」を失ったことによる「不幸」を(おそらくは、その原因をほとんど理解しないままに)失ってしまい、今日よりもさらに大きな「不満」を抱く事にならざるを得ない事になるだろう。

 そして、そうなれば彼等はきっと、「大阪がもっと発展する」「今の苦しい暮らしぶりをもっと楽にさせてくれる」と彼等が「信ずる」詐欺話にすがりつくようになるだろう。そして、大阪はさらなる衰退の憂き目に遭うことになるのだ。

 ―――誠に残念な話であるが、筆者の脳裏にはその将来の大阪市民の皆さんの姿がありありと浮かぶのだ。もちろん、筆者のそのイメージが全て単なる杞憂であり、単なる間違いであるのなら、それはそれでもちろん構わない。大阪市民の皆さんは例えば先に紹介した吉村知事の発言の様な言葉を信じればそれで良い。

 しかし万一、筆者のこのイメージが正鵠を射たモノだとすれば、大阪市民は、長い時間をかけて獲得し、守り続けた「政令指定都市」という高度な自治を、自らの意図でゴミ箱に捨て去るように破棄してしまうことを通して、将来二度と立ち直れぬ程の深刻なダメージを被ることになるのだ。

 だから大阪市民を中心とした「大阪都構想」にご関心の皆様方は是非、この可能性を真剣に検討せねばならないのである。